モリコート®特殊潤滑剤の歴史と最新の開発動向|ジュンツウネット

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デュポン・東レ・スペシャルティ・マテリアル株式会社
 営業部門部長 米澤 雅之 氏,
 研究開発部門 モリコート研究開発部 部長 山口 哲司 氏に聞く  2023/10
自動車や工業用製品で長年の実績を誇るモリコート™特殊潤滑剤は2023年に75周年を迎えた.2017年にダウコーニング社がダウ社の一部となり,その後ダウ社とデュポン社との対等合併・事業分割により,2019年よりモリコート®はデュポンブランドとなり,国内での開発・製造・販売をデュポン・東レ・スペシャルティ・マテリアル(株)が行っている.同社営業部門の米澤 雅之 部長と研究開発部門の山口 哲司 部長(写真1)に製品開発の歴史や特長と今後の展望についてお聞きした.
米澤 雅之 氏(左)と山口 哲司 氏(右)-デュポン・東レ・スペシャルティ・マテリアル
 写真1 米澤 雅之 氏(左)と山口 哲司 氏(右)

-モリコート®の歴史について

モリコートの創業者アルフレッド・ゾンターク(Alfred Sonntag)は,ドイツ人の機械設計技術者でした.1930年(当時26歳)に米国へ渡り,航空機向け金属部品の極圧下疲労試験機を設計し,その分野で成功を収めていました.評価過程において,極圧下で優れた潤滑特性を発揮する二硫化モリブデンに着目し,今から75年前の1948年に,当時44歳でアルファモリコート社を設立し,世界で初めて二硫化モリブデン潤滑剤の量産化に成功しました.また,アルファモリコート社は潤滑試験機も販売していました.修理こそされてはいますが,現在も当時の試験機が弊社宇都宮研究所で稼働しており,彼がいかに優れた技術者であったかを物語っています.

以来,モリコートはライフタイム・ルブリケーションを可能とする潤滑剤として,メンテナンス分野,工業分野から始まり,自動車産業の発展に貢献してきました.これら工業化の進展とともに,ビジネスを大きく伸長させ現在に至ります.

日本では,1953年に輸入販売を開始し,1976年から国内で製造販売を開始しました.自動車,家電製品,事務機などお客様の様々なニーズに応えるため,二硫化モリブデン以外の固体潤滑剤,添加剤技術の開発,鉱油,合成油,シリコーン,フッ素等を基油とした高性能化技術の開発が行われ,オイル,グリース,コンパウンド,固体潤滑剤,アンチフリクションコーティング(AFC)など環境,条件に合わせた幅広い製品群(写真2)をお客様に提供するに至りました.現在では,日本製のモリコート®が世界中に供給されています.

モリコート製品-デュポン・東レ・スペシャルティ・マテリアル
 写真2 モリコート®製品
2019年にモリコート®がデュポンブランドになってからは,国内開発・製造・販売は,デュポン・東レ・スペシャルティ・マテリアル(株)がモリコート事業を継承しています.栃木県宇都宮市清原工業団地に研究開発棟を,千葉県市原市に千葉工場を新設するなど,積極的な投資を行い製品開発,テクニカルサービスの提供,供給安定性を確保しています.海外では,ドイツ,アメリカなどの主要な海外拠点を中心として,研究棟や工場が新設・拡張され,開発能力と供給安定性を高めています.研究開発拠点が世界各地にあり,グローバルでお客様の声,特に昨今では各国に導入される新たな法規制,環境安全情報をもとに技術/製品開発がされていること,グローバルで製品供給ができる体制が整っていることもモリコートの強みであり,75年にわたりお客様と歩んでくることができたひとつの理由です.

-モリコートの主な特長や適用例

最初にモリコートのイノベーションの歩みを簡単にご紹介します(表1).

 表1 モリコートのイノベーションの歩み
モリコートのイノベーションの歩み
これらイノベーションはいずれもお客様,マーケットの声に応えるものであり,これらイノベーションに支えられたモリコート製品はそのユニークな特長により様々な産業分野の様々な用途で採用され続けています(表2図1).近年では電気自動車,燃料電池自動車への用途開発も積極的に行われており,採用事例も増えてきました.
 表2 モリコートの各種産業での採用例
モリコートの各種産業での採用例
自動車産業におけるモリコートの採用
 図1 自動車産業におけるモリコートの採用
図2は潤滑剤をタイプ別に俯瞰した“ルブリカンツ テクノロジー ピラミッド”と呼ばれるものです.ピラミッドの底辺から広く一般的に使用されている潤滑剤,階層が上がるにつれ特殊な性能を持つ潤滑剤に性能が上がります.性能が上がると価格も上がるのが一般的です.鉱油などの最下段にある潤滑剤は一般的に使用されているもので,特殊な性能を持つものではありませんが,価格もそれほど高くなく汎用的に広く使用されています.一方,ピラミッドの頂点にはPFPE(パーフルオロポリエーテル)フッ素系潤滑油が位置付けられて,高い潤滑性能を持ちますが,価格も高くなります.
ルブリカンツ テクノロジー ピラミッド-デュポン・東レ・スペシャルティ・マテリアル
 図2 ルブリカンツ テクノロジー ピラミッド
モリコート製品は潤滑性能と価格においてバランスを取りながら製品開発をしています.

今回は,消音(NVH),高信頼性・耐久性,環境対応,耐荷重性・耐防錆性,の四つの技術をご紹介します.

1.消音(NVH)技術

近年,特に電動化に伴いニーズがますます高まっている静粛性に対する消音,NVH(Noise Vibration and Harshness)技術です.潤滑にはグリースのようにオイルを主成分とするウェットな環境で使用されることを目的とした潤滑剤と,アンチフリクションコーティング(AFC)のようにドライ環境での潤滑を目的とした潤滑剤があり,それぞれ求められる技術が異なります.モリコートではその両者で消音技術を提供しています.

下記にプラスチックギアを用いた各種グリースの音響試験の結果を示します.高粘度オイルを使用した既存消音グリースに比較して,グリースに特殊な増粘剤を添加した弊社消音グリースのモリコートG-1076グリースはギアから発生するノイズを低減していることがわかります(図3).

ギア試験におけるグリースのノイズ低減効果-デュポン・東レ・スペシャルティ・マテリアル
 図3 ギア試験におけるグリースのノイズ低減効果
次にAFCですが,こちらは乾燥状態で優れた摩擦特性を示す潤滑剤になります.図4はノイズ試験中に発生するノイズの一例を示したものです.従来と比較して,消音目的で開発されたためノイズ低減に優れていることがわかります.
潤滑試験における発生ノイズの低減効果-デュポン・東レ・スペシャルティ・マテリアル
 図4 潤滑試験における発生ノイズの低減効果
これら技術を適用したグリース,AFCは全世界で販売しており,グリース製品は潤滑性と静粛性を要求される自動車のアクチュエーター,家電,工業用製品で,AFCは自動車,家電製品から発生するきしみ音防止目的で採用されています.

2.高信頼性,耐久性技術

高信頼性,高耐久性の観点から近年開発されたアンチフリクションコーティング(AFC)とモリコートG-8101グリースの二つの技術を紹介します.

AFCは,図5に弊社SRV試験機で行った耐摩耗試験の結果を示します.従来と比較して優れた耐摩耗性を有しており,さらに相手剤への攻撃性も最小限にされていることがわかります.この技術を適用したAFCは,従来では耐摩耗性が不足しており満足いただけなかった用途において採用が始まっています.

耐摩耗性試験(SRV)試験結果-デュポン・東レ・スペシャルティ・マテリアル
 図5 耐摩耗性試験(SRV)試験結果
モリコートG-8101は,高信頼,高耐久性のため超耐熱を持たせたp-フルオロポリエーテルを基油としたグリースです.表3に220℃で行われた弊社FE9ベアリング試験の結果を示します.高温化の試験であるにも関わらず,従来品と比較して10倍以上の耐久寿命となっています.高温・高負荷条件で使用される設備・ベアリングでの採用が進んでいます.
 表3 FE-9ベアリング試験(220℃)試験結果
FE-9ベアリング試験(220℃)試験結果-デュポン・東レ・スペシャルティ・マテリアル
3.環境対応潤滑剤

モリコートP-3700ペーストは,スチームやガスタービンのボルトに使用される高温用ペーストとして,六価クロム発生リスクの少ない技術の開発に成功し,環境に優しい潤滑剤としてドイツで開発され日本では2022年から販売を開始しました.

図6に示す通り,ペーストを塗布したステンレス製ボルトを>500℃以上に放置する環境試験において,モリコートP-3700ペーストに六価クロムの発生が観察されなかったことから,その効果が確認されました.高温用ペーストして全世界での採用が始まっています.

ステンレスボルトに対するペーストの高温環境試験-デュポン・東レ・スペシャルティ・マテリアル
 図6 ステンレスボルトに対するペーストの高温環境試験
この他にも環境対策用潤滑剤としてはハロゲンフリーのグリース,人体への影響の大きいDMAc(ジメチルアセトアミド)を含まないアンチフリクションコーティング製品の開発,移行など,お客様の協力のもとに環境,人体への影響,負荷の小さい潤滑剤の開発を行っています.

4.耐荷重性に優れるスーパーグリス

耐荷重性,耐防錆性のどちらか一方に優れたスプレー潤滑剤は世の中に数多くありますが,スーパーグリスはその両方を高いレベルで実現したユニークな製品です.発売から40年以上経過した製品ですが新たに最新の他社製品との物性比較を行ったところ,他社品を上回る高いパフォーマンスが確認されています(図7).

工場設備の保全,金属部品の防錆,摺動部の音消し,ねじ・ボルトの弛緩等幅広い用途でご使用いただけます.

スプレー塗布後FALEX耐荷重試験の結果-デュポン・東レ・スペシャルティ・マテリアル
 図7 スプレー塗布後FALEX耐荷重試験の結果

-海外と日本での製品開発について

日本やドイツ,アメリカなど,複雑な機械部品・装置の製品設計をするお客様をサポートするためには,論理的であることとそれを裏付けるデータが必要です.グローバルの会議でも,「日本のお客様が求めることは細かい」と指摘されますが,同時に「だから日本車は信頼性が高い」とも言われます.

モリコート®の日本チームの存在意義は日本のお客様に対してグローバルサポートをすることです.弊社内ではLJO(Landed Japanese Operations)と呼びますが,営業・開発部員でLJOチームがあり,海外の日系企業で問い合わせがあれば日本チームがリードしながら対応できるように現地スタッフと連携しています.

また,製品開発におけるお客様の要求にも違いがあります.これは,それぞれの国によって使用される環境が異なるので当然なことですが,製品開発に携わる研究開発部門にとっては大変なことです.各国の市場,お客様の要求を正しく理解するためのグローバル会議への参加に加え,それに合わせた複雑で何通りもの組合せの試験,評価をしなくてはなりません.

-サステナビリティ戦略について

サステナビリティとは,将来にわたって現在の社会の機能を継続していくことができるシステムやプロセス,一般的にはそういった仕組みを指しますが,環境学的には生物的なシステムがその多様性と生産性を期限なく継続できる能力のことを指し,さらに組織原理としては,持続可能な発展を意味しています.

サステナビリティ,持続可能な発展はもはや,どの企業にも避けて通ることはできない課題となっています.

デュポン社では図8に記載されているサステナビリティ戦略を打ち出しており,モリコートもこの戦略に則り,かつその戦略に沿ったビジネスプロセスを採用しています.

デュポン社のサステナビリティ戦略
 図8 デュポン社のサステナビリティ戦略
グローバルに法規,製品安全のスペシャリストを持つ当社の強みを最大限に生かし,新しく導入する原料,製品の最新各国法規の適合状況,化学物質の健康,安全,環境データを確認,分析し,その結果に基づきリスク分析,低減を行うだけではなく,すでに使用している原料,販売されている製品のリスク分析,低減を継続的に行っています.

さらに弊社ではお客様から要望いただいた製品についてLCA(Life cycle analysis)を開始しており,弊社ドイツ工場ではすでに複数のご要望をいただき,持続可能な発展に向けてお客様と取り組んでいます.また日本でもお客様のご要望があれば対応できるように準備をしています.

-今後の抱負や展望など

従来の潤滑剤に要求されてきた低摩擦,低摩耗,高耐久性に加え,近年の特殊潤滑剤には,EV化に代表される市場の大きな変化により,静音性をはじめ高効率,絶縁,熱マネジメント,導電などの複合的な技術が求められています.

弊社では従来の潤滑特性にさらなる価値を与えることをモリコート+Xと呼び,これらのニーズに応えるために,従来の考えにとらわれることなく新しい技術を開発し,新製品を今後もグローバルで継続的に投入してまいりますのでどうぞご期待ください(図9).

モリコート+X試験結果例-デュポン・東レ・スペシャルティ・マテリアル
 図9 モリコート+X試験結果例
おかげさまでモリコート®特殊潤滑剤は,上市から今年で75年を迎えました.100年まで残り四半世紀となるこの節目の年を当社では「感謝する年」として,多くのお客様や取引先様へ感謝を伝えております.この場をお借りして,改めてお礼を申し上げます.

-ありがとうございました.


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