松本 光崇 氏,間野 大樹 氏 に聞く 2026/10
資源循環やサーキュラーエコノミーへの関心が世界的に高まるなか,使用済み製品や部品を再生し,新品と同等の機能・品質を持つ製品として再び市場に戻す「リマニュファクチャリング(リマン)」が近年注目を集めている。その世界的な研究者・企業・関係機関が集まる「World Remanufacturing Summit(WRS)2026」が,2026年11月4日(水)~6日(金)の3日間,早稲田大学 西早稲田キャンパス(東京都新宿区)で開催される。WRSは2012年から開催されてきた国際会議で,今回,初めて日本で開催される。
WRS2026では,リマン,循環型設計,製品ライフサイクル管理,資源循環,製造プロセス, 標準化,ビジネスモデル,政策・制度設計などに関わる国内外の研究者,企業,行政・政策関係者,産業界のステークホルダーが一堂に会し,最新の研究開発動向と社会実装に向けた課題が議論される。
今回は,WRS2026を主催する,リマニュファクチャリング推進コンソーシアム(RECO)※1 会長の松本 光崇 氏(産業技術総合研究所 製造基盤技術研究部門 研究部門長)と間野 大樹 氏(産業技術総合研究所 製造基盤技術研究部門 表面機能・トライボロジー研究グループ長)に,リマンの国内外の現状や今後の展望,リマンにおけるトライボロジーが果たす役割とともに,WRS2026の見どころについてお話を伺った。
※1 リマニュファクチャリング推進コンソーシアム(RECO)について
RECOは,日本でサーキュラーエコノミーを推進するため,またサーキュラーエコノミー時代のものづくりの競争力の強化に必須であるリマンについて,産学官のステークホルダー間で情報の共有とビジョンの形成を行い,リマンの高度化と普及を推進していくことを目的に2024年10月に設立。2026年8月21日現在,48社・機関が参画している。
RECOホームページ https://unit.aist.go.jp/cmt-ri/reco/index.html
WRSの歴史と日本で開催されることになった背景
WRSは2012年にドイツで第1回が開催されて以降,欧州,米国,アジアを持ち回りで開催されており,10回目の開催となる今回,初めて日本で開催されることとなった(表1)。
日本で開催されることになった背景について,松本 氏は「日本ではこれまで,政策・研究開発の面でリサイクルが資源循環の中心となってきた一方で,産業界では,複写機,自動車部品,建設機械,航空機などの分野ですでにリビルドやリマンの取組みが行われてきました。こうした日本企業の実績は海外からも高く評価されており,日本でWRSを開催する機運につながりました」と語る。
リマニュファクチャリングとは
リマニュファクチャリングとは,「一度使用した製品を,回収して解体,洗浄,検査,修復,再組立て,最終検査して,新造製品と同等の機能状態にするプロセス」のことである。製品分野によっては,リビルド,リコンディション,レトロフィット,オーバーホールとも呼ばれ,さらに広義にはリユース,リペア(修理),リファービッシュ,診断・メンテナンスなどを含む概念として定義される。
サーキュラーエコノミーの国際規格であるISO 59000シリーズでは各用語について定義しているが,松本 氏は,「リマン以外はやや静脈的(廃棄・廃棄物の修理)な意味合いが強いのに対し,リマンは動脈的(製品の設計やものづくりの段階からの配慮)な意味合いとして,リマンを前提とした製品設計や,製品の作り方をどのように広げて発展させていくかという観点で捉えるのが良いと考えています」と語る。
リマンの国内外の動向と現状
リマンの研究拠点としては,欧州ではドイツのバイロイト大学やフランホーファー研究所,米国ではロチェスター工科大学(RIT)などが中心的な役割を担ってきた。また,中国やシンガポールなどでも研究開発が進められており,航空機など特定分野に重点を置いた研究機関も設立されている。
海外の動向を見ると,米国では資源循環や環境負荷低減だけでなく,ビジネス価値がリマンを推進する大きな原動力となっている。従来の「製品を売って終わり」というビジネスから,アフターサービスやライフサイクルビジネス,さらには製品そのものではなくソリューションやサービスを提供する「サービス化」へと産業構造が変化するなか,リマンが新たなビジネスの拡大や製品付加価値の拡大のための手段となっている。
欧州でも,サーキュラーエコノミー政策の一環として,リサイクルよりも高い付加価値を維持した状態で製品を循環させる手段としてリマンが重視されている。
一方,日本では,古くからリビルドなどの市場は形成されているものの,メーカー主導のリマンという点では,まだ発展の余地が大きい。特に自動車部品では,OEMやOESの力が強かったことなどを背景に,国内での普及は海外に比べて緩やかだったとみられる。
建設機械のように部品が大型で製造コストも高い分野では,リマンによる資源削減効果やコストメリットも大きく,ビジネスとして成立しやすい側面があるが,今後は大型のB to B製品だけでなく,小型製品やコンシューマー向け製品へ対象を広げ,収益性を確保することが課題となる。
リマンの高度化を支えるトライボロジー
リマンにおいて,トライボロジーはどのような役割を担うのか。対象となる製品の多くは機械製品であり,その内部にはシャフト,ベアリングなどの機械要素が含まれる。リマンの工程では,これらの部品に補修が必要となるケースが多く,補修技術や補修後の品質評価,状態診断,余寿命評価が重要になり,これらにトライボロジーが深く関わってくる。部品の余寿命を正確に評価できれば,交換すべき部品と再使用できる部品を適切に判断できる。これは資源生産性やコスト効率を大きく左右する。松本 氏は,「検査,寿命評価,特性評価,状態診断などがリマンにおいて本質的に重要な技術であり,その中でトライボロジーが果たす役割は大きい」と語る。また,間野 氏は,「トライボロジーの観点でのリマンという意味では,まだ端緒についたばかりで,現状は研究開発の側面が強くビジネス化はこれからという状況ですが,WRS2026を今後のトライボロジー業界にリマンを普及させるための一つの布石としたい」と意気込みを語る。
AI,AM,EV,易解体設計など,広がる技術領域
リマンの分野では今後,状態診断や補修加工に加えて,様々な要素技術の融合が進むことが予想される。
例えば,コーティングによる補修やAM(Additive Manufacturing)を活用した補修技術,EVのバッテリーやモーターのリマンなどが挙げられる。
また,AIやロボティクスを活用した自動化,ITプラットフォームによる情報活用も重要になる。欧州では「デジタルプロダクトパスポート(DPP)」の制度的な後押しも始まっており,製品のライフサイクル全体で情報を管理する仕組みが,リマンの効率化につながる可能性がある。
さらに,近年注目されている「剥がせる接着剤」などの易解体技術も,リマンしやすい製品設計を実現する要素技術の一つとなる。
WRS2026で幅広いテーマを議論
WRS2026では,大学・研究機関によるリマンの最新動向に関する講演や,テクニカルセッションでは,自動車・輸送機器,ITプラットフォーム,EVバッテリー,AMによるリペア,易解体接着,AI・自動化など,リマンを取り巻く幅広いテーマについて議論される。また,ポスター展示では,産総研などの研究開発に加え,日立建機やインドのマヒンドラ社などの取組み事例も紹介される予定だ。以下では各日の見どころをご紹介するが,プログラムの詳細については別表(表2)を参照いただきたい。
11月4日(水)
海外の大学や研究機関によるリマンの海外動向に関する講演や,産業界でのリマンにおける先進的な実践事例としてトヨタ自動車,パナソニック,日立建機などによる講演,サーキュラーエコノミーとリマンの動向に関して,東京大学 梅田 靖 教授,早稲田大学 所 千晴 教授らによる講演,状態評価のセッションでは日本精工やENEOSなどによる講演のほか,コーティング補修のセッションが予定されている。
11月5日(木)
循環型経済のための制度的枠組みやビジネスモデルについての講演のほか,モビリティ分野におけるリマン,循環型経済を実現するためのITプラットフォームに関する講演,EVバッテリーやAM補修,分離可能接合技術,リマンにおけるAI・自動化についてのセッション,リマンにおける産学連携研究開発についての講演が予定されている。
11月6日(金)(見学ツアーのみ)
最終日は,希望者向けに(1)リコー環境事業開発センターでの複写機リマニュファクチャリング,(2)パナソニック エコテクノロジー関東での家電リサイクル・自動解体,(3)信越電装での自動車部品リマニュファクチャリング,の三つのコースの産業見学を予定している。各コースは定員制で,先着順での受付となる。
リマンは,単なる「古いものの再生」から,設計,製造,保守,診断,回収までを含む新たなものづくりの仕組みへと変わりつつある。その中で,機械要素の状態評価や寿命予測,補修技術などを支えるトライボロジーの重要性は,今後さらに高まると考えられる。
松本 氏は,「リマンから見たトライボロジーは,機械要素の評価や診断,製造のキーテクノロジーになる部分です。産業界の方向性という意味で,次世代のものづくりに求められる部分はどういうところに向かっているのか,一つの側面として是非見ていただきたいと思います」と語る。WRS2026は,日本のリマンへの取組みを世界に発信すると同時に,海外の先進事例や最新技術を国内の産業界が知る貴重な機会となる。サーキュラーエコノミー,製品設計,製造プロセス,リサイクル, サステナビリティ,環境評価,資源戦略等に関心をもっている方々をはじめ,トライボロジー関係者にとっても注目すべき国際イベントとなりそうだ。
World Remanufacturing Summit (WRS) 2026 開催概要
- 開催日:2026年11月4日(水)~6日(金)※2
※2 6日(金)は見学ツアー。見学ツアーの詳細は下記URLより
https://unit.aist.go.jp/cmt-ri/WRS26_web/industrialtour.html - 会場:早稲田大学 西早稲田キャンパス(東京都新宿区)
https://www.waseda.jp/top/access/nishiwaseda-campus - プログラム:表2を参照。最新情報は下記URLより。
https://unit.aist.go.jp/cmt-ri/WRS26_web/program.html - 登録料:通常登録50,000円※3 /学生登録20,000円※3 /同行者20,000円※4
※3 登録料は,11/4 Banquetへの参加費,昼食代,コーヒー代を含む
※4 同行者は,11/4 Banquetのみ参加可能 - 参加登録:下記URLより。
https://kitos-001.jp/wrs2026_register/Entry/RegTop.aspx - 公式Webサイト:https://unit.aist.go.jp/cmt-ri/WRS26_web/index.html
○11月4日(水)














