はじめに
フロンエタンがオゾン層保護法で1995年全廃され,代替えフロンのHCFC・トリクロロエチレン・塩化メチレン・臭素(1-ブロモプロパン)と不燃性溶剤の選択肢が増える一方,使い方・法規制・コスト等それぞれ問題点を抱えながら使用する必要性があった.洗浄装置は溶剤の問題点を補う役割も必要とされ,ただきれいに洗浄するだけではなく地球環境・作業環境・洗浄コスト削減等を求められる時代へと変化していった.
2024年4月に洗浄業界に大きな衝撃となった出来事となったが,塩素系の代替溶剤として多くのお客様にご使用いただいている臭素系溶剤(1-プロモプロパン)が厳しく規制される法改正が施行された.2019年頃に弊社にも届いたこの情報がきっかけで新型洗浄装置開発へ動き出した.また,弊社のお客様の多くは切削加工やプレス加工後の脱脂を目的とする洗浄を行っているが,加工油の粘度が高く付着量も多い傾向がある.そのような加工油を洗浄するにはある程度の溶解力をもった溶剤の登場が不可欠であるが,その頃待望の溶解力を持つフッ素系溶剤が販売された.
1.新型洗浄装置開発の背景
洗浄装置の開発を考える上でクリンベストの特長である省スペース化やシンプルで操作性が良いところは継承しながら作業環境・地球環境・コスト等にも対応できる機械であること,さらにフッ素系溶剤を多くのお客様にご使用いただくためには洗浄時間が臭素や塩化メチレン等とほぼ同等である必要があった.
お客様と接していて思うのだが,切削加工機やプレス加工機は多くの台数を設備されているが,洗浄機は1台しか持っていないお客様が多いのである.部品加工の製造を効率的に行っても洗浄に時間を要すると出荷までの工程が滞り,結果として1日の出荷量が減ってしまういわゆるボトルネックとなる.出荷量は会社の収入と考えると,加工部品の製造工程と洗浄工程の作業時間をバランス良く行うことはとても重要なことなのである.よって洗浄時間をトリクロロエチレン・塩化メチレン・臭素に近づけることはお客様が新フッ素系溶剤の選択をする上で大きな要因となりうると考え,開発する上では重視することとした.またクリンベストZEROという名前は社員から募集したのだが,クリンベストの長い歴史があり型式がZタイプまであるので原点回帰の意味を込めて“ZERO”と名付けた.
2.クリンベストからの継承
クリンベストには弊社の代名詞である過熱蒸気システムの『ウルトラヒート』機構があるが,継続して新型機にも採用することにした.蒸気洗浄では図1のように沸点温度まで蒸気雰囲気が上昇する.洗浄ワークが蒸気洗浄を行いながら熱を与えて沸点近くの温度になる.その後乾燥工程ではワークに付着している溶剤が気化するのだが,溶剤の蒸発潜熱でワークから熱を奪い溶剤が気化して洗浄ワークが乾燥する.蒸気洗浄を行うことで洗浄ワークが沸点近くの温度を持つが蒸発潜熱で熱を奪われるため,ワーク温度が沸点よりも下がり乾燥しにくい状態になる.図2のウルトラヒートありの場合は蒸気ゾーンにある溶剤雰囲気を溶剤沸点以上に上昇させることができるため,洗浄ワークに沸点より高い温度を持たせることができる.ワーク表面に残っている溶剤は洗浄ワークの沸点以上温度により簡単に揮発させることができる.乾燥性を向上させて溶剤の持ち出しを最小限に抑え,さらに乾燥スピードも上げられるシステムである.新型機の開発には『ウルトラヒート』と新たな機能を共存させることを目標とした.
3.新型洗浄装置クリンベストZERO IIIの新たな特長
クリンベストZEROには追加されたシステム(図3)でガス回収を担う深冷回収システム『ウルトラクール』,予冷槽,全閉槽クローズ機構の三つの機能を追加した.またバスケットの搬送機構を自動化させて作業の効率化を図った.
- ウルトラクール:深冷槽に約-25℃まで冷却した溶剤を作り冷却管では回収しきれない薄い溶剤雰囲気を液化して効率良く回収
- 予冷槽:洗浄バスケットの上下動作やシャワー等で蒸気ゾーン破壊時に蒸気の上昇を抑え,予冷槽側のスペースへ逃がすことで溶剤ロスを削減
- 完全槽クローズ:洗浄バスケットが洗浄槽内に搬入出時以外は完全に蓋を閉めて溶剤ロスを削減
- 自動化:自動搬入搬出機能を標準化して洗浄バスケットを腰の位置で出し入れして作業者の負担を軽減
洗浄機仕様とクリンベスト標準機とクリンベストZEROにおける溶剤ロスの比較を表1,2に示す.
4.今後の展望
クリンベストZEROはフッ素系溶剤をお使いいただくお客様が量産品を洗浄する場合でも十分に対応できることを目指している.そのためにタイセイクリンケミカルは次のステップとして全自動化したクリンベストZEROの開発に着手している.
自動化によりコンベアからの自動搬入搬出が可能になり,洗浄量の多いお客様に魅力ある製品となる.また,洗浄剤消費量をIII号機より削減する洗浄機をクリンベストZERO IVとして2024年9月の洗浄総合展に展示する.
新クリンベストZEROと新フッ素溶剤の組合せは量産を手掛けられているお客様のニーズにも十分お応えできると確信している.
洗浄でお困りのことがございましたら,ぜひお声がけいただきたい.
【洗浄テストのご案内】
実機で弊社スタッフが対応します.フッ素系,臭素系,塩素系対応可能です.
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